最高裁判所第一小法廷 平成9年(オ)1606号 判決 1997年10月23日
愛媛県伊予三島市寒川町四二二七番地
上告人
青木常雄
同所
上告人
株式会社トキワ工業
右代表者代表取締役
青木常雄
愛媛県八幡浜市大字松柏丙八三一番地
(送達場所 愛媛県大洲市徳森一三四九番地)
被上告人
丸三産業株式会社
右代表者代表取締役
菊池公孝
右訴訟代理人弁護士
宮部金尚
右当事者間の高松高等裁判所平成八年(ネ)第二四〇号実用新案権侵害差止等請求事件について、同裁判所が平成九年五月二九日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告人らの上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)
(平成九年(オ)第一六〇六号 上告人 青木常雄 外一名)
上告人らの上告理由
第一、原審判決と無効審判の審決(甲第二六号証)。
(高裁判決第三の一)
争点に対する当裁判所の判断(地裁判決:二七頁一一行目から二八頁一〇行目までを次の様に改める)として、一二行にわたって述べている中で、
「本件考案の構成要件(4)のように、実用新案登録請求の範囲に方法的記載がされたまま登録されることがある。
この様な実用新案登録請求の範囲をどのように解釈するかが問題となるが、物品の形態を正しく表現するには、その製造工程を記載するのが適切である事が多いことに鑑みれば、実用新案登録請求の範囲中に記載される製造方法ないし工程は、その実施の結果得られる特定の形態を方法的表現によって間接に記載したものと解するのが相当である。」という「高裁判決の第三当裁判所の判断」に対して、先に訴外大三株式会社が出した上告人の有する本件登録実用新案の登録無効審判の申立てに対して、請求の不成立が審決されたが、その中で関係ありと考えられる分を抜粋して次に記述し、それらに関する反論に替える。
一、(登録無効審判事件審決書一四頁一行目から)
本件の願書に添付した出願当初の図面の第四図から、点線で薄片B側の上方左右隅角部C、Dが薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重なっており、そして点線で隅角部C、Dが薄片B側の表面に三角形状に折り重なっている事から開口部2が狭窄されており、さらに薄片Aの折り畳み部イが薄片B側に折り返されて開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被している事が読み取れる。
そして、出願当初の第四図に示された右記の包被の状態をどのようにして作り出すかについては考案の詳細な説明には記載されていないが、前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片Bに折り返す過程において、上方左右隅角部C、Dが前記薄片Bの表面の内方に向って三角形状に折り重ねられ、その結果、前記開口部が狭窄されること、あるいは予め前記薄片Bの表面の内方に向って三角形状に折り重ねて前記開口部を狭窄させた後、前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返すことによって同第四図に示された右記の包被状態が作られることは、当事者が推測できないことではない。
そして右記補正は、第四図に示された右記の包被状態が上方左右隅角部C、Dを予め前記薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重ねて前記開口部を狭窄させた後、前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返すことによって形成したものに限定したものであるといえる。
従って、右記の点は出願当初の第四図から読み取れる範囲外の事項であるとは言えない。
また、右記補正によって第四図が補正され、前記薄片B側の表面の内方に向って折り重ねられた上方左右隅角部C、Dの三角形状が誇張されていることが認められるが、これは上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重ね、これによって開口部を狭窄した状態を一層明確にしたに止まり、特別な新たな事項を意味するものとも解されない。
そして、右記補正が当該補正前の明細書の実用新案登録請求の範囲を減縮するものであることは明らかである。
それゆえ右記補正は、出願当初の図面の第四図の記載から自明な事項の範囲内で実用新案登録の範囲を減縮したものに当たり、実用新案法第九条第一項の規定によって準用する特許法第四一条の規定により、明細書又は図面の要旨を変更しないものと見なされるものに当たる。
よって、昭和六三年九月二四日にした補正は、明細書の要旨を変更するものである、との請求人の主張は失当である。(一六頁一三行目)
二、本件登録実用新案の新規性・進歩性について(一六頁一四行目)
以上の通りであるから、本件の出願日は昭和五八年三月八日である。このことを前提として、右記理由について考察する。
(1) 理由1について(審決書一六頁一八行目から)
本件請求人は、本件出願の出願日は実用新案法第九条第一項の規定によって準用する特許法第四〇条の規定により昭和六三年九月二四日にしたものとみなされるものであるという事を前提として、本件実用新案は昭和六三年九月二四日よりも前に本件請求人が公然と実施した実施品(甲第四号証および甲第五号証)と同一である旨主張するが、昭和六三年九月二四日よりも前に本件請求人が公然と実施した実施品が、具体的にどのようなものか、何時からか、どこで、どのように実施されたものかが、審判請求理由においては明らかでないばかりでなく、当該理由1の前提そのものが成り立たない事は上述の通りであるから、理由1は明らかに失当である。
(2) 理由2について(審決書一七頁一三行目から)
理由2は、本件の出願は昭和六三年九月二四日にしたものと見なされる、という事を前提とすると、本件登録実用新案は実開昭五九-一三八五六八七号公報(甲第七号証、本件裁判の甲第三七号証・同号証で判るとおり、公報番号の末尾七は誤りで、正しくは、実開昭五九-一三八五六八)に記載された考案、および実開昭五一-一一一八七八号公報(甲第八号証、本件裁判では甲第三六号証)に記載された考案、および実開昭五一-一一一八七八号公報(甲第八号証、本件裁判では甲第三六号証)に記載された考案に基づいて本件の出願の前に当業者が極めて容易に考案することが出来たものである、というものである。
この理由も、本件の出願は昭和六三年九月二四日にしたものと見做されるということを前提とするものであり、この前提が成り立たない事は上述の通りであるから、この理由もまた失当である。
(3) 理由3について(審決一八頁八行目から)
本件明細書の実用新案登録請求の範囲の欄に記載された考案は、「前記袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重ねて前記開口部2を狭窄させた後、前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返して該開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被した茶バックであること」を構成要件とするものであり、この点をその要旨の一部とするものであると解するのが相当であることは上述の通りである。
理由3は上記の点は、そもそも物品の形状構造又はその組み合わせに関する考案の構成要件たり得ないものであるから、この点を本件考案の構成要件から除外して本件登録実用新案の要旨は認定されるべきであるという事を前提として、この前提に立って本件登録実用新案は、実開昭五六-一〇三四六二号公報(甲第一三号証、本件裁判では乙第一三号証)に記載された考案および実開昭四七-九八一一号公報(甲第一四号証、本件裁判では乙第一五号証)に記載された考案とに基づいて、本件の出願前に当業者が極めて容易に考案する事ができたものである、というものである。
しかし、右記の前提を是認し得ないことは上述の通りであるから、この理由も失当である。
ちなみに、仮に本件の登録実用新案の構成要件から右記の点を除外してその要旨を認定するとしても、それは右記両公開公報に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものであるとは、必ずしも断じられない。(一九頁一八行目)
すなわち、右記証拠方法、実開昭五六-一〇三四六二号公報(甲第一三号証、本件の乙第一三号証)に記載された「灑袋」そして請求人が他の理由の証拠方法の一つとして提出した実開昭五一-一一一八七八号公報(甲第八号証、本件の甲第三六号証)に記載された「だし袋」もそうであるように、茶パックの素材は柔軟で吸収性があり、水中にある時はその保形性が乏しい為に、水中に沈めた時に水の動きなどによる外力を受けたならば、開口部が自然に開放されて内容物が露出する恐れがある等の為に、従来は開口部を機械的(ホッチキス、あるいはファスナーかど)に固定して密封してい。た他方実開昭四七-九八一一号公報(本件の乙第一五号証)に記載された物は袋の開口部を閉塞するための形状・構造において近似するものではあるが、これは通常の物品包被を目的とするブラスチック袋であって、とくに吸収した状態で開口部の封止が緩み、開口部から内容物が自然に漏出するようなものではない。
これに対して、本件登録実用新案は、例えば右記実開昭五一-一一一八七号公報(本件の甲第三六号証)に記載されたものと同様の材料で作られるバックについて、その開口部を封じるための形状・構造を右記実開昭四七-九八一一号公報(本件の乙第一五号証)に記載された袋と同様の開口部の形状・構造とすることによって、開口部を機械的に固定することなく、実用上支障もなく、極めて簡便な茶バックを構成する事ができたものである、と言うことができる。
このことを勘案すると、例えば実開昭五一-一一一八七号公報(本件の甲第三六号証)に記載された「だし袋」を参酌するとしても、実開昭五六-一〇三四六二号公報(甲第一三号証、本件の乙第一三号証)に記載された考案および実開昭四七-九八一一号公報(甲第一四号証、本件の乙第一五号証)に記載された考案に基づいて極めて容易に案出できた事であるとは必ずしも断じ得るものではない。
むすび
以上の通りであるから、右記理由(1)(2)(3)はいずれも理由がなく、これを採用することはできない。
よって結論の通り審決する。
審判長 特許庁審判官 園田敏雄
特許庁審判官 祖山忠彦
特許庁審判官 前田仁
*念のため、特許方第四一条を附記する。
第四一条 出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達
前に願書に最初に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内に於て特許請求の範囲を増加し減少または変更する補正は明細書の要旨を変更しないものとみなす。
右のとおり、原判決は、審決(甲第二六号証)につき解釈の誤りがあると共に審理不尽の違法がある。
第二、実用新案登録の内容に関しての反論
(高裁判決第三の一の2の(2))
(地裁判決三一頁五行目ないし一〇行目)
本件考案の構成要件(4)の「袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重ねて前記開口部2を狭窄させた後、前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返して開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被した」ことに関する構成は、出願当初の実用新案登録請求の範囲に記載されていないばかりか、考案の詳細な説明中にも記載がなかった。
一、右記に対して以下の通りに反論する。
(公開実用新案公報 昭五九-一三八五六八、本件の裁判の甲第三七号証)
(公開 昭和五九年(一九八四)九月一七日)
第一図、第二図、第三図は公知のとおりで、第四図は左右隅角部を三角形状に折り畳んで狭窄するものである、との意味合いを明瞭にしたもので、第五図は折り畳み部IがB側に折り返されて二つ折りして形成された袋の両面全体を包被したことを示す断面図である。
ここに書かれたIは登録請求の範囲に於ける当初の第一図というところのカバー片Iであり、補正時にはこれを(イ)と言い換えて示した。
出願当初において、この図面のままでは三角形状が狭窄を意味するものであることを理解し得ない人もいるかも知れない、との指摘を受けて補正が為されたもので、判決がいうような、包被したことに関する構成がなかったとか、出願当初の実用新案登録請求の範囲に記載されていなかったとか、考案の詳細な説明中にも記載がなかったとか、と言う事には当たらない。その主旨は出願当初も補正後も一貫して変わる事なく明らかに記載されている。
(注意:出願当初の図面に於ける記号1は、補正後には呼称を明確にして(イ)とした。そして当初の図面の記載1は第一図の上辺部分に1で示し、その第三図の断面図では袋本体の側面に附加される1で示し、第五図では袋体の右側面から反対側に折り返されて上辺全体を包被したと判明する1として示してある。
これをまた補正時の図面で見ると、同じ様に第一図では当初の1に対して同じ様にその上辺を(イ)とし、第三図に於ても断面図に於ては同じ様に襞の状態で(イ)で示し、第五図の包被状態を示す断面図では反対側に折り返されて、包被した状態になった(イ)と示した。)
従って、判決が言う様に包被したことに関する構成がなかったとか、当初の登録請求の範囲に記載されていなかったなどの根拠のない勝手な解釈をするのは不当である。
この解釈の誤りは、判決に影響を及ぼすこと明らかな審理不尽の違法である。
以上の図面による記述に併せてとくに重要な襞について述べていく。
本件お茶パックにとってはこの襞の機能こそが本質であって、出願当初の図面では記号1で示し、補正時には記号(イ)として表記し、正面図においてはいずれもA面の上辺部分に位置して横に細長く折り畳まれており、第三図の断面図では袋体の側面上方に附加された形で貼り付けて記号を(イ)として表記している。
そこで、本件登録の有底袋体のどの部分が俗に襞と呼称している部分であるかを詳述する(本件明細書 三欄の一六行目から二五行目)。
方形薄片1の一辺を裏面側に折り畳んで折り畳み部イを形成し、相対する一辺を裏面側に折り畳んで、折り畳み部ロを形成やる。この折り畳み部イ、ロの各折り線ハニが同一線上で上端縁となって重なるように、前記折り畳み部イを外側に、また折り畳み部ロが内側になるように前記薄片1を二つ折りとして、一方の裏薄片Aと他方の裏薄片Bとの両面を形成し、前記薄片A、Bの両側端を融着3して上方開口部2を有する有底袋体を構成する。
以上の通り述べる中で、「折り畳み部イ」と表現する部分が、すなわち襞と呼んでいる部分である。
二、(高裁判決第三の四の(5))
(地裁判決四四頁九行目ないし一一行目、四五頁三行目)
右記は下記の通り述べている。
「以上の通りあるから本件実用新案権の保護の対象となるのは構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、前記(3)<1><2>のとおりの形態に開口部が狭窄包被された茶パックに限定されるものと認めるのを相当とする。従って本件考案に係る茶パックは構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、構成要件(4)の閉塞方法によって開口部が閉塞される構造の茶パックに限定するものと解するのが相当である。」
本稿を論述するに先立って、判決が言う<1><2>に関しては、登録請求の範囲でその通りにする手順をそのまま述べた。そして後述する被上告人の商品パッケージの使用方法の<2>の絵を分解し説明する中で、襞の中に挿入した親指と人差し指を介入させたその絵が、全く登録請求そのままの通りの手順である事を物語っているので、その絵<2>について上告人としての見解を述べる。
<1>すでに襞の内側に挿入されている親指は、襞を折り返す為にあらかじめ待機させているもので、
<2>両方の人差し指を上方左右隅角部にそれぞれあてがう事になった人差し指で、その隅角部C、Dを押さえると、三角状その他の窄んだ状態で狭窄が行われ、
<3>それに誘因されて襞が折り返されて包被される事になる。
手順はこの通りであって、一番最初にこの場合は、人差し指に触れたその生地を押さえれば狭窄され、その生地を押さえなければ狭窄もされないが、包被もされない。
ここでこの場合の人差し指の介入は、生地を押さえれば狭窄するので、被上告人側ではこの指の介入は禁じ手というべきのものであり、この禁じ手を使って生地を押さえれば狭窄されるが、禁じ手を使う事がなければ狭窄しない事がはっきりと分かる。
言い換えれば<2>の絵は全く上告人の登録請求通りに行われている図示と言えるものである。そして又、判決が疑問視する<1><2>に関してはそれが又反論でもあろう。
従って、本稿の中で判決が言う主指をはずれるものはない。以上に従って下記のとおりの論述を加えておく。
三、(高裁判決第三の六)
(地裁判決四九頁一一行目、五〇頁一行目)には
イ号、ロ号物件のように単に重畳部3を薄片B側に折り返して開口部を包被した結果、上方左右隅角部C、Dが薄片B側の表面内方に向って若干三角形状に折り重なり、開口部が若干狭窄されたかの如き状態になっている茶パックは、本件考案の技術的範囲には含まれないものである、と以上のように述べられている。しかしその是非をここで問うつもりはないが、次の通り述べる。
1. 実用新案権の保護の対象となるのは有底袋体であって、前記(3)<1><2>の通りの形態に開口部が狭窄包被された茶バックに限定されるものと認めるのを相当とする。
2. 本件パックを包被するのは俗に言えば、通常襞と呼ばれるもので、上告人の場合はこれを折り畳み部イとして有底袋体を構成するA面に記載し、それを反転すれば反転された形で有底袋体のB面にも(B面に於ける場合は断面図に)記載してある。
そしてその襞である上告人の折り畳み部イは、被上告人の場合は重畳部3である。それが有底袋体を構成するものであるなら、被上告人が重畳部3を使って開口部を包被したと言うのは、有底袋体は保護の対象になる権利を有すると言いながら、その構成部分である襞(重畳部3)を当然の如く利用している事は、被上告人自ら権利を侵害したと言っている事に他ならず、その行為は不当であろう。
原判決はこの点においても証拠の適用を誤り、さらに判決に影響を及ぼすこと明らかな審理不尽の違法が存在する。
四、(高裁判決第三の八の二の2)
(地裁判決五二頁の一〇、一一行目 五三頁の一行目)
判決が右記で言う事を下記の通り記述する。
しかしイ号、ロ号物件の重畳部3の下に親指を挿入して折り返す際に、両方の人差し指を左右隅角部C、Dにそれぞれあてがうことになる、と言う。
(高裁判決第三の五の3の(二))
(地裁判決第三の一の3の(二)、四五頁一〇行目、四六頁一行と二行目)
また右記に於て下記の通り記述する。
証拠(甲三、四ないし六の各1、2)によると、イ号、ロ号物件の商品パッケージには、イ号、ロ号物件の使用方法として
<1> パックの中に緑茶等を入れます。
<2> 折り返し部分に親指を入れ、反対側に返すとフタができます。
<3> できあがり状態。
と記載されている。
以上の通り、ここでは被上告人のパッケージにおける使用方法がある程度明確に真実を示しているので、被上告人が示すこれらの資料(甲第三八号証)を参考にしながら、それぞれそのものが該当する当然の名称や注釈をつけながら論じる。
まず「イ号、ロ号物件の重畳部3の下に(注意:ひだの内側に)左右の親指を挿入して薄片B側に折り返す際に、両方の人差し指を上方左右隅角部C、Dにそれぞれあてがうことになるが」…と判決文は言っているが、それは当然の事である。
しかしこれは、本件お茶パックの使用手順からすれば当然のことである、という事で、被上告人がそうした人差し指をここであてがう事は当然とは言えないのである。
何となれば、折り返すというその際に、すでに襞の内側に挿入している親指とは別の人差し指を介入させて、あらかじめ準備行為として挿入して待機していた親指に対応させて、開口部を押さえようとするのであるが、ここでこのタイミングで開口部を押さえる事をすれば、必ず狭窄現象が起こる。従って狭窄が必要な上告人の場合はその様にして生地を押さえるのであるが、これは上告人にとっては当然の行為なのである。
しかるに被上告人の場合は狭窄をする事を否定しているの
であるから、必ず狭窄する事と分かり切った行為をするのは不見識であろう。そして、狭窄する必要がない被上告人が、このタイミングで両方の人差し指をわざわざ介入させ、左右隅角部C、Dにそれぞれあてがうという不当行為をするのは許されるものではない。
「物理的に可能である」などと言葉をすり替えてその不当行為をごまかし、「閉塞するのに何ら困難性を伴わない」と言うのは甚しい欺瞞であろう。
ちなみに、判決が言う様に人差し指をここでそれぞれあてがえば、判決のいう通りに何らの困難性も伴わないで折り返すことができるので、ごく自然に判決が言う様に、ここで人差し指を介入させる事になるのであるが、それを当然の如く介入させてその人差し指で襞の生地を押さえれば必ず、狭窄ができて、襞が折り返される事になるのである。
したがってここで判決が言う通り、その際ここで両方の人差し指を隅角部C、Dにそれぞれあてがえば、必ず狭窄現象を起こすことになる。狭窄はしない、と宣言している被上告人にとっては、狭窄に至ると分かり切っているその行為をするのは禁じ手である。
いわゆる将棋において、してはならない事が禁じ手であり、被上告人としては狭窄する事が決まり切っている行為をする事がつまり禁じ手ということである。その禁じ手を使うのは不見識極まりない。
それが不見識でないと言うのなら、その禁じ手を使わないで、つまり人差し指を介入させないで重畳部3の下(いわゆる襞の中)に親指を挿入しただけのままで、時間をかけて待ってみれば分かるはずである。
すなわち、決して狭窄現象を起こす事はできないが、そのかわりに包被する事もできないのである。包被できる、と言うのは詭弁である。
この点も原判決に解釈の誤りがあり、かつ審理不尽の違法がある。
五、(高裁判決第三の四の(5))
(地裁判決四四頁の九行目から一一行目、四五頁の一行目から三行目)
以上の欄には、本件実用新案権の保護の対象となるのは、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、前記(3)<1><2>の通りの形態に開口部が狭窄包被された茶バックに限定されるものと認めるのを相当とする。
従って本件考案に係る茶バックは、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、構成要件(4)の閉塞方法によって開口部が閉塞される構造の茶バックに限定するものと解するのが相当である、と記載されている。
以上の様に、自分なりに登録権を認めながら、下記の欄では以下の様に述べられている。
(高裁判決第三の五の(3))
(地裁判決四六頁の七行から一一行目)
従って、イ号、ロ号物件の開口部の閉塞方法は、いずれも重畳部3を薄片B側に折り返すのみであり、上方左右隅角部C、Dを薄片B側の表面内方に向って三角形状に折り重ねて開口部Eを狭窄させる、という構成要件(4)前段の閉塞方法がとられていない事が認められる。
そしてイ号、ロ号物件の構造(検甲三)に照らすと、この様な閉塞方法によりイ号、ロ号物件の開口部を閉塞することは物理的に可能であり、かつ操作方法として何らの困難性を伴わないことが認められる。
被上告人の右記の記述は、明らかに襞を使うという事の証明である。
つまり、何等の困難性を伴わない事が認められる、と言うのは、襞を使って狭窄させて折り返すからこそ閉塞するのに困難性がないわけで、襞を使わなければそう簡単には閉塞はできないであろう。
従って、被上告人は上告人とは異なったやり方で包被する、と言うのであるから、襞以外のものによって包被するのが当然であろう。
それを公然と
<1>重畳部3を薄片B側に折り返すのみである、と言って上告人の折り畳み部イすなわち襞を使って
<2>三角形状に折り重ねて開口部を狭窄させる、と言う閉塞方法がとられていない事が認められる、とまで言って襞を使って行為したことの確認までしているではないか。…狭窄するのはやり方の問題であって、今ここでやり方の問題を言うつもりはない。
<3>つまり襞は有底袋体の構成がなされる中で、包被の目的をもって特別に附加された物、通常は襞という本件お茶バックの本質部分なのである。それを単なる一つの方法かの如く錯覚して無自覚、無法をかえりみないのは不当である。
<4>この襞は、上告人が別途の商品を開発する途上で発見したもので、その後試行錯誤の繰り返しを経て今日に至っているものであり、
<5>折り返したり、三角状になったり、狭窄したりするのは全てやり方の領域の問題であって、フタをするのに一体何を使ってするかは別の領域の問題である。
<6>狭窄はしない、そしてそのような事で包被をしない、また上告人とは異なるやり方で包被する、と言うのなら、襞を付けたままで何時までもそのままにしておく必要はなかろう。襞を附加した上告人の目的は、これを使って狭窄をし包被する目的の為に、わざわざ附加したものであり、狭窄することもなく又包被するやり方も上告人のやり方とは異なる被上告人が、必要でもないその襞を何時までも付けたままにしないで放棄除去するのが当然であろう。それなのに、そうしないのは何故か。不当ではないか。
原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかな審理不尽がある。
六、さらに襞について具体的に見解を述べる。
人間で例えて言えば、手の場合に於ける指の部分であり、また爪の部分でもある。
そして見方を変えて言えば、人体の中の腹でもあり、又背中でもあるという関係のものである。
そして袋に例えるなら、袋の底の部分でもあり、物を入れる時の入口でもあり、物を蓄える側面の部分でもある。
本件お茶バックの襞は絶対に必要な物として、本質的に欠くべからず物であり、それは、有底袋体の上辺の上端を外側に向って折り重ね、これを両側端で融着して貼り付け折り畳み部イとして附加させてある物で、これでもって袋本体を包被するのであるが、それを機能として役割分担をする部分である。
権利の保護の対象範囲となる有底袋体の上辺部分を構成する中に存在するものである。
それらの事を被上告人は自覚すべきであるのにこれを無視して、重畳部3を使って包被したと、(高裁判決第三の六)(地裁判決五〇頁五行~八行目)の欄でも言っている。
そして(高裁判決第三の七の四)(地裁判決五〇頁五行~八行目)には下記の様に論述している。
「以上の次第でイ号、ロ号物件に於ける茶バック等の開口部の狭窄、包被の状態と本件考案に係る茶バックの開口部の狭窄、包被の形態は異なるものであるから、イ号、ロ号物件は、いずれも本件考案の構成要件(4)を補足せず、本件実用新案権を侵害しない」
このように言う判決は、右記で反論する通り間違っている。
(注意…襞についてその解釈を下記の通り附記する。)
襞(ひだ)<1>衣類や布地などにつけた細長い折り目…大辞泉
<2>袴や衣服に細長く折り畳んでいる折り目…広辞苑
次に、襞を折り返す時にどうなるのか、という簡単な現象を被上告人が認識しているか否かは知らないが、いずれにしても簡単なことであるので、念の為に納得できる事を以下の如く述べる。
1. 襞を反転させると現状の姿・形がすぐ崩壊し、そしてそれが又再び別の位置に、いわゆる今までとは全く反対側に出現する。
この状態をはたして被上告人が意識して形成させているか否か。…その認識がなければ狭窄しないという断言はできないだろう。
そしてかく言う認識もできていない者が狭窄を決してしない、と断言するのは不当ではないのか。
そして、その現象を自分自身には分らぬままに、狭窄する事はないと言ってその不明を糊塗してつまり一時しのぎに取り繕い、曖昧にしようとしている。
襞を反転すれば、それまで形成されていた山の頂上が逆さになってしまう事すら分からず、またその後の変化を考える事もなく、そして襞の内側と外側が入れ替わってしまう事も、きらにそれがどんな姿・形に変化するかも認識できないのである。反転する事で、再び先程まで置かれていた位置とは全く別の反対側に元の形とはまた別の姿・形に形成されて出現するのである。
あらためて出現した先程とは別の形容をもって出来た襞の形について、本件お茶バックを使用する当事者は、どんな形の形成を考えたのであろうか。
果たして被上告人ならば、どんな形を意識してするのかつくるのか、知りたいものである。
いずれにしても、自分の意思によって形成するかの如く言うのであれば、折り返した結果はどんな形状に成るのか、そのものを立証することが必要であろう。
このように原判決に解釈の誤りと審理不尽の違法がある。
七、(高裁判決第三の六)
(地裁判決四七頁の八行~一一行目)
右記において、下記の通り述べている。
*その結果開口部が若干狭窄されたかの如き状態になることが認められる(ただし後期二の2で認定するように、開口部が若干狭窄されたかの如き状態にすらならない場合もある。)と述べると共に、続いて、
(高裁判決第三の六)
(地裁判決四九頁一一行~五〇頁一行~四行目)
に於て、繰り返して次のようにいう。
*重畳部3を薄片B側に折り返して開口部を包被した結果云々…開口部が若干狭窄されたかの如き状態になっている茶バック(時には開口部が若干狭窄されたかの如き状態にすらならない場合もある茶バック)と以上のように言うなかで、若干狭窄されたかの如き状態になっているとか、若干狭窄されたかの如き状態にすらならない場合もある。というのは、どんな状態を言うのか。
つまり若干狭窄されたという若干とは、一体何によってそういうのか。
要するに襞の生地が、折り返されるかどうかによって、狭窄作用が決まるわけで、折り返されなければ狭窄が作用していないのであって、それは包被に至る事もない。襞が折り返されれば、狭窄作用がはたらいてそれに伴って包被される事になる。…このような通常の状態を狭窄することがないという被上告人の行為に、通常の状態があるとも思えないが、
*若干狭窄するとか、しないとかの意味が判らない。従って上告人が以上にいうように、
上辺部分が襞の内側へ内包されてしまう程度に狭められるか、狭められればよいわけで、その度合いの大小を当事者が意識して決めてかかっているものではない。
被上告人らの場合は、前もって仕方、やり方、かたちを考えて意識的にするので、そのように若干狭窄するという様な現象も見られるというのであるが、上告人には、合点がいかない。
*本件お茶バックを構成する形から推定して、上告人の場合には、襞でもってこれを行う以外にやり方がないので、その前提でいうことになるが、
本件お茶バックを包被しようとして、手順と作用にしたがって行為をはじめる。(襞を反転することになる。)
<1>この反転をすれば、今までの襞の山は毀れて、上下と内外がすべて反対側に変わってしまう。
<2>この変化の変遷は、自然に狭まり又自然に窄まって当事者上告人の意のままでない儘に形成され、それが又再び今までとは全くの反対側に無為自然の現象と共に、再び姿、形は別のものに変化して復元される。
*如何にしてか上告人のような閉塞方法をとらないと言って重畳部3または折り返し部分を使って、折り返すなどの行為をするのであれば、上告人と同じ襞を使用しているのであるから、今上告人が述べる襞の変化が理解できないことはなかろう。若し、その折り返した場合の単純明白な変化すら分からないのなら、失礼ながら、襞について論じることが許されるだろうか。
そして又、襞の変化が理解できるのであれば、その変遷過程が作用するであろう、かずかずの狭窄現象を素直に推察するのが、素直な常識というものではなかろうか。
原判決にはこのように、意味不明の判示部分があり違法である。
八、次に、被上告人の商品バッケージの(2)の絵を分解する。
被上告人が商品パッケージに書いた絵を念の為に分解して説明する必要があるので、その絵の意味する事について見解を述べる。
(高裁判決第三の五)
(地裁判決第三の一の3の(二)の四五頁一行から四六頁一行と二行)
バッケージにはイ号、ロ号物件の使用方法として
<1> バックの中に緑茶等を入れます。
<2> 折り返し部分に親指を入れ、反対側に返すとフタができます。
<3> できあがり状態。
と記述されているが、この<2>が本件登録の請求範囲の中の手順における作用のあり方が目で見て簡単に説明できるものであると思うので、この絵にある意味を分解して見解を述べる。
(高裁判決第三の八)
(地裁判決五二頁一〇行目と一一行目~四六頁一行目)
しかし、イ号、ロ号物件の重畳部3の下に左右の親指を挿入して薄片B側に折り返す際に、両方の人差し指を上方左右隅角部C、Dにそれぞれあてがうことになるが、と判決文の中で述べられているが、前記の使用方法も、後段に言う指をそれぞれあてがう事になる、と言うのも全く道理にそって言われる通りである。
しかし、上告人と被上告人の見解は、ここから違うのである。
つまり、親指を入れ折り返します、と言いながら、折り返す事もできていない段階で人差し指を介入させて何か別の事をしようとするのは何故か。それは挿入したままの親指だけでは折り返す事ができないが故に、人差し指を介入させて隅角部C、Dにあてがうのであろう。
その様にあてがった指でする事は、襞の生地を押さえる事である。
この様にしてすれば折り返す事ができ、そして襞を狭窄することになる。
この絵には、上告人が登録請求の範囲で述べている通りの事が書かれているのである。(三角形状に折り重ねて前記開口部2を狭窄させた後前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返して隅角部C、Dを包被したことを特徴とする)。
被上告人が、この段階でわざわざ一方の別の指をもつてそうするのは、何の必要があるというのか。重畳部3(ひだ)の中に指を入れたままにしておいてわざわざ又別の指を使う必要があるのか。
この事は、その様に別の指を介入させてしなければならない事を、柔軟性があるとか、物理的に可能であるとか言って、何等の困難性を伴う事もなく折り返す事ができる等偽りを言うのは不当であろう。
それは違う、と言うなら、上方隅角部C、Dに別の指をあてがう事をしなければどうなるのか。つまり狭窄する事はないが、包被に至る事もないのである。
九、以上に詳述したとおり、原判決は、解釈を誤り、判決に影響を及ぼすこと明らかな審理不尽の違法がある。
しかるに原審は、明らかに違法な被上告人の、イ号、ロ号物件の製造販売を中止させず、上告人の控訴審における主張・立証を一顧だにせず早急に結審し、違法・不当な判決を宣告した。
原判決は直ちに棄却されるべきである。
以上